フィンランドの子育て支援

「ジェンダーギャップ指数2022」(世界経済フォーラム)…2位
  -男女平等の度合いを評価し、格差が少ないほど上位となる

ジェンダー平等がすすみ、女性のほとんどがフルタイムで働くフィンランド。最近ではひとり親、再婚、事実婚、同性婚など、家族の形が多様化しています。また、高齢化のスピードが比較的速い国でもあり、核家族化もすすんでいます。
そんなフィンランドの子育て家族を支える制度が、世界中から注目を集めています。キーワードで紹介しましょう。

ネウボラ

 Kimmo Brandt © Helsinki city

ネウボラ(neuvola)はアドバイス(neuvo)の場という意味で、妊娠期から就学前までの子どもの健やかな成長・発達の支援はもちろん、母親、父親、きょうだい、家族全体の心身の健康サポートも目的としています。フィンランドでは妊娠の予兆がある時点でまずネウボラへ健診に行きます。ネウボラはどの自治体にもあり、健診は無料で利用率はほぼ100%。全国のネウボラの数は約850です。妊娠期間中は少なくとも8-9回、出産後は15回ほど子どもが小学校に入学するまで定期的に通い、保健師や助産師を中心に専門家からアドバイスをもらいます。子どもや家族の必要に応じて健診は追加されます。健診では母子の医療的なチェックだけでなく、個別に出産や育児、家庭に関する様々なことを相談でき、1回の面談は30分から1時間かけて、丁寧に行います。また、担当制になっているため、基本的には妊娠期から子どもが小学校にあがるまで、同じ担当者(通称「ネウボラおばさん」)が継続的にサポートをするので、お互いに信頼関係が築きやすく、問題の早期発見、予防、早期支援につながっています。医療機関の窓口の役割もあり、出産入院のための病院指定、医療機関や専門家の紹介もしてくれます。健診のおかげもあり、フィンランドの妊産婦と乳幼児 の死亡率は非常に低くなっています。

ヘルシンキ市作成のネウボラ紹介ビデオ(音声は日本語)(他のウェブサイトにリンク)

Maternity and Child Health Clinics(他のウェブサイトにリンク)
 

育児パッケージ

Maternity package
Jari Riihimäki ©Kela


育児パッケージは出産に際し、KELA(フィンランド社会保険庁)から支給される母親手当のひとつです。母親手当そのものには、1子170ユーロの現金支給または育児パッケージの二つの選択肢があります。ほとんどの家庭、特に第1子を迎える家庭では育児パッケージを選択します。育児パッケージには所得制限はありませんが、ネウボラもしくは医療機関での妊婦健診の受診が必要です。このようにパッケージを無料で提供する仕組みは、民間団体の発案ではじまり、1937年に法制化された母親手当の現物支給として位置付けられるようになり、1949年からは所得制限が撤廃されています。また、このシステムは妊婦健診への動機付けとして効果的であり、現在ではほぼ全員が妊婦健診を受け、リスクの早期発見・早期予防に貢献しています。

Jari Riihimäki ©Kela

現在、育児パッケージの中身はベビーケアアイテムやベビー服、親が使用するアイテムなど43点(2022年版)。育児パッケージの箱は赤ちゃんの最初のベッドとしても使え、箱のサイズにあわせたマットレスや羽毛布団、ベットリネンが用意されています。パッケージの中身は男女共通で、価格や用途、さらに両親からの要望を考慮しながら少しずつ改良され、昨今は、よりサステナブルなものになっています。育児パッケージは、生まれてくる子ども全員への、社会からの分け隔てない祝福と歓迎のシンボルです。

Kelaの育児パッケージの紹介(他のウェブサイトにリンク)

育休制度

他にも、フィンランドには様々な子育て家族向けの手当や休業制度があります。2022年8月1日、新たな家族休業に関する法律を施行。親が2人いる場合は320日(勤務日)を均等に分けることが可能となりました。これは親の責任も喜びも平等に分かち合うこと、職場や賃金の上でのジェンダー平等促進を目的としています。さらに、制度に柔軟性をもたせ、育休日を増やすことで、より利用しやすくしています。以前の制度下でも父親休業の取得率は約8割でしたが、新制度は更なる取得率向上を目指しています。

フィンランドにはイクメンという言葉はなく、男性が子育てをするのは当然視されているといって過言ではありません。小学生の親のうち、父親の方が母親よりも子どもと過ごす時間が長いという統計結果もあり、「手伝う」のではなく父親として主体的に子育てをすることが求められています。また、たとえ離婚・別居しても、親権を両方で持つことが多く、元パートナーと可能な限り協力し子育てについての親の責任を果たすことが奨励されています。

子育てに関する社会保障制度の一例

母親手当(親の性別に関係なく、養子を含む子どもを迎える家庭が受給可能)

育児パッケージもしくは現金170ユーロ(妊婦健診受診が条件)

産休

・産前30勤務日から可能。計40勤務日(約1.5カ月)

親休業

・子どもが2歳になるまでに320勤務日(約13カ月)
・2人の親が交代で均等に分け合う

・うち、最大18日勤務日は2人同時に取得可能だが、それ以外はどちらかが就業している必要がある

・均等に分けると一人当たり160勤務日だが、そのうち
最大63日を互いに譲ることができる
・養子を迎えた親、同性婚の親など家族の形態に関係なく適用される。
・一人親の場合は、2人分を取得可能

・多胎児や未熟児の場合、延長あり

さらに、親は雇用を維持したまま、子どもが3歳になるまで無給休業を取得し、家庭で育児する権利がある

児童手当

1人あたり月額(0-17歳未満全員に支給)
第1子 毎月94.88ユーロ
第2子 毎月104.84ユーロ
第3子 毎月133.79ユーロ
ひとり親加算:子ども1人につき63.30ユーロ

 在宅保育手当

・子どもが3歳未満で、家で保育している場合受給可能
・子ども1人あたり月額362.61ユーロ

・子どもの人数や年齢によっては加算あり

・一部自治体では追加の手当あり

保育制度


フィンランドでは1973年に保育園法ができ、全ての子どもたちに保育施設を用意することが自治体の義務になりました。1996年には法改正が行われ、母親の就労有無に関わらず誰もが保育園に入れるという主体的権利が子どもに与えられました。これによって自治体は保育場所を24時間確保する責任があり、たとえ夜間保育や特別支援が必要な子どもにも安くて良質なサービスを提供することが義務付けられました。

保育には、在宅、自治体、民間によるもの、と様々な選択肢がありますが、利用者の90%以上は自治体の公的保育を利用しています。利用料は所得に応じて決まり、通常4カ月前までに申し込む必要があります。しかし、仕事、就学、資格取得等のために急きょ保育利用の必要がある場合は、申し込みから2週間以内に自治体はサービスを確保することが政令で定められています。

全日保育の利用は最長10時間まで。利用料には昼食代も含まれ、希望する場合は朝食を提供する保育所も多くあります。保育所では、3歳未満の子ども4人につき、1人の保育専門職が担当し、1クラスの人数は12人まで。3歳以上の場合は、子ども7人につき大人の保育専門職が1人以上、1クラス最大21人までとなっています。

2015年からは、小学校入学前の就学前教育が義務となりました。6歳前後の子どもたちは一年間、午前中を就学前学校で過ごします。就学前教育は自治体の管轄で授業料は無料。クラスは幼児教育教師、または基礎学校教師が担当し、子どもたちの数は1クラス最大13人まで、助手がいる場合は20人までです。授業は国のコアカリキュラムに基づいて計画されますが、特に教科はなく、多面的な子どもたちの学びと発達を促し、学校にあがる基礎を作ることを目的としています。したがって、遊びを通じ、各自の発達に応じた形で自己肯定意識と、学び方を強化します。

Early Childhood Education and Care-Finnish National Agency for Education(他のウェブサイトにリンク)

関連リンク
KELA社会保険庁(他のウェブサイトにリンク)
THL国立健康福祉センター(他のウェブサイトにリンク)
THLジェンダー平等(他のウェブサイトにリンク)
社会保健省(他のウェブサイトにリンク)
ギャラリーA4 生まれてはじめてもらうプレゼント「フィンランドのベビーパッケージ」(他のウェブサイトにリンク)