LGBTアートが主流へ

東京の代々木公園イベント広場では5月7~8日、LGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーの頭文字)への認知度と理解を高めることを目的とした東京レインボープライドが開催される。北欧5カ国の大使館も趣旨に賛同し、共同ブースを出展。このイベントを記念して、フィンランド大使館のサイトではエロティックアートの巨匠として知られるフィンランド人「トム・オブ・フィンランド」に焦点を当てる。

トム・オブ・フィンランドというアーティスト名で活躍したフィンランド人のトウコ・ラークソネン(1920-1991)は以前、フィンランド国内の保守的な空気を感じて、自身の描いたホモエロティックな絵を壊さなければならなかった。そんな時代は変わり、かつて物議を醸した彼の芸術作品は今日、「寛容」のシンボルとなっている。

Photo: Itella Posti Oy / Finland. Original images (1978,1979) Tom of Finland foundation / USA
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フィンランド郵便サービスが発売した記念切手セットのなかで、最も人気の高いのがトム・オブ・フィンランド

フィンランドの郵便サービスPostiが初めて切手を導入したのは1856年。それから約160年後、世界中から高い関心を集めた切手セットが発売された。2014年4月、Postiのウェブショップがダウン。178か国から7万件もの予約注文が届いたからだ。世界中が欲しがった切手、それがトム・オブ・フィンランドだった。

切手セットの発売は、トム・オブ・フィンランドが受け入れられていることを表す、最も公的な行為といえる。ラークソネンが服を脱いだ男性同士のカップルの絵を描いていた頃は、フィンランドはまだ戦後直後で保守的だった。彼は違法とみなされた数々の絵を安全に保管する場所がなく、強制的に破壊させられた。

「彼がしたことは現在、違った見方をされています。賛同する人が多くなったのです」と、Postiの切手を仕掛けたトム・オブ・フィンランド財団(ToFF)のフィンランド代表スサンナ・ルオトは説明する。「単純に性的なものというより、新たな領域に入ったのです。トムは同性愛を超えて今日、全ての寛容の心を表しています」

口ひげを生やした男らしさ

Photo: Finlayson
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トウコ・ラークソネンは 3,500点以上の作品を残し、今ではショッピングバッグやベッドシーツ、紙製品、エプロンなどに使われている。Filaysonのモノクロプリントされた生地は異例の大ヒットに

トムの口ひげをはやした男性の絵を様々なところで見られること自体、幅広く受け入れられている証といえる。財団はFinlayson、Putinki、Jalo Helsinkiといったフィンランド企業と協力し、今ではトムの象徴的な絵がショッピングバッグやベッドシーツ、紙製品やエプロンなどに使われている。

フィンランドのテキスタイル会社Finlaysonはトムのモノクロプリント生地を作っている。トムの絵をベッドリネンに採用してから、Finlaysonブランドのウェブストアの売り上げは2倍になり、総売り上げも前年に比べて大幅に増加した。おかげで国内中心だった販売活動が海外まで広がり、トム・オブ・フィンランドラインは21カ国以上で売られている。売り上げの中心は国内だが、スウェーデン、アメリカがそれに続く。

トム・オブ・アメリカ

トム・オブ・フィンランド財団のダーク・デヘネル会長は、トムが徐々に受け入れられていく様子を目の当たりにしている。ロサンゼルスにある彼の3階建ての家に1984年、ラークソネンとともにエロティックアートを保存するための非営利財団を設立したのだ。

Photo: Tom of Finland Foundation
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トウコ・ラークソネンは1970年代後半にアメリカを定期的に訪れるようになり、トム・オブ・フィンランドがゲイコミュニティに深く影響していることに気づいた。ラークソネン (右)は良き友人のダーク・デヘネルからインスピレーションを受けていた

トム・オブ・フィンランドの絵が初めてアメリカの筋肉系男性誌Physique Pictorialに登場したのは1956年。当時からアメリカには忠実なファン層がいたが、ラークソネンが初めてアメリカに渡ったのは1970年代後半になってから。自身のライフスタイルによりあった風土があることに気づいてからは頻繁に訪れるようになった。

時代を超越した作品

1991年、トウコ・ラークソネンが亡くなった時、彼の良い友人であり、インスピレーションの源でもあったダーク・デヘネルは、彼の遺産を管理する責任を担った。「私はポップカルチャーから彼が消えないようあらゆる手段を使い、全力を尽くすと自分に誓いました」と、デヘネルは振り返る。「彼の作品は時代を超越しているため、次世代、さらに次の世代へと繋いでいくことができました」

ラークソネンは生涯、3,500点以上の作品を残した。それらの多くは財団が保有しているが、個人所有されているもの、もしくはヘルシンキ現代美術館キアズマやニューヨーク近代美術館、ロサンゼルス現代美術館が保有しているものもある。

最近では、トム・オブ・フィンランドの作品を見るために遠くに行く必要もない。ドイツ、スペイン、カナダ、ノルウェーといった一部の国で展示されているし、トムをモチーフにした製品も広く展開されている。次々に開催される展覧会と、近く完成する伝記映画によって、トムが人々の意識からすぐに消え去る危険性はないだろう。

TOM OF FINLAND, Untitled, 1966, Graphite on paper © 1966 Tom of Finland Foundation
tom art
トム・オブ・フィンランド は世界で最も有名なフィンランド人アーティストだとも言われている。彼のホモエロティック 作品はゲイの人々だけでなく、ポップカルチャーやファッション美学にいたるまで幅広く影響を与えている

「彼と彼の芸術は世界中の人々から愛され、祝福されていると思っています」と、デヘネルは言う。 「トム・オブ・フィンランドよりもふさわしいフィンランドの大使を、私は思いつきません」

トムはあらゆるところに

トム・オブ・フィンランドの展覧会はスケールアップして世界各地を巡回している。展覧会The Pleasure of Playはニューヨークで好評を博し、5月7日よりヘルシンキのTaide Halliで開催される。さらに、Homotopia のアーティスティックディレクター及びキュレーターのギャリ-・エヴェレットがプロデュースするトム・オブ・フィンランドの展覧会が、2017年にフィンランド南西部のトゥルクで開幕。その後世界各地を巡回する予定だ。また、フィンランド人監督ドメ・カルコスキがメガホンをとるラークソネンの伝記映画は、2017年2月に公開予定となっている。

フィンランド外務省のサイトthisisFINLANDより要約